硫黄岳。本沢温泉から美濃戸口へ、東西横断の雪山歩きの2 DAYS。


- GPS
- 10:34
- 距離
- 17.8km
- 登り
- 1,318m
- 下り
- 1,385m
コースタイム
- 山行
- 2:55
- 休憩
- 0:16
- 合計
- 3:11
- 山行
- 6:14
- 休憩
- 1:06
- 合計
- 7:20
天候 | 雪 晴々 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス タクシー
|
写真
感想
八ヶ岳、湯元本沢温泉。硫黄岳爆裂火口の湯川に湧く温泉は標高2,150m。江戸末期の文化文政の頃に猟師により発見された。と伝えられ、1874年(明治7年)創業。
もちろん、その名は知っていて、ずっと気になっていて、
去年の夏の終わり、ジョンコナー隊長と南八ヶ岳から北八ヶ岳への縦走の最後の休憩地点として立ち寄った。
中庭のベンチで少し軽食を摂らせて頂いた。その鄙びた佇まいの建物を眺めていると好奇心をくすぐった。ぜひ中を見てみたいし、ぜひ泊まりたい。それも冬が良い。
1995年に増築された新館もあるのだが、風情を感じるには本館が良いに違いない(はず)。
と、連休のタイミング、今度は八ヶ岳連峰を東側から本沢温泉を経て、南八ヶ岳に連なる硫黄岳を越え、赤岳鉱泉を経て西側の美濃戸口へ抜けてみればどうか、と。
八ヶ岳の良いところは、冬でも営業している山小屋が良い塩梅に点在していて、雪山を渡り鳥の様に渡り歩く登山者の止まり木として休息をもたらしてくれる。
また、森から森へそれぞれ個性あふれる山小屋を訪ねて歩くだけでも、非日常な、トムソーヤの様な冒険を味あわせてくれる。
3連休初日の朝。東京駅は早朝から帰省時期の様な混雑ぶり。
新幹線に乗り込み、隊長に報告。 何か隊長の様子が少しおかしい。どうにか新幹線には乗り込んだ様だけど。
どうも駅のホームで派手に転んでしまい、何やら色々問題が起こっている様で、ちょっと今日は行けないかも。と。
デッキで落ち合って様子を伺って、ちょっとそれだと無理そうですね。。と、白い雪を見る前に撤退、途中下車することになった。
いきなり1人になってしまった。
最初から1人の計画と、急に1人の計画とは心持ちが違う。精神的ダメージでモチベーションは急降下。
もっとも、隊長の方がダメージが大きかったはずなのだけど。。。
しばらく立ち直れなかったけど、電車を乗り換えたり、移り変わっていく景色を眺めているうちに、徐々にそれは癒されて、なんとか気分を切り替えることが出来た。仕方ないものは仕方ない。
さて、そんな事を考えているうちに、佐久平駅から小海線へ乗り換え松原湖駅へ到着。予約してあったタクシーがすでに待っていてくれて、スムーズに乗り継ぎ乗車、ひとまずホッとする。
DAY 1・みどり池入口からしらびそ小屋を経て本沢温泉へ
去年、お風呂を借りてバスに乗った稲子湯へ過ぎて、少し先のみどり池入口、登山口に降ろされる。ここは駐車場にもなっていて、すでに多くの自動車が停まっている。
10時半前。アイゼンを付けたり装備を整える。すでに雪はハラハラと降っていて、天気予報は午後からは曇り、というか雪の予報。弱々しい陽射しが一瞬差すものの、直ぐに雲に覆われる。
ローキーな光量は幻想的な雪景色をより幻想的に、サラサラとした雪はすでに結晶となって降り積もる。手付かずのシュガーパウダーの様な雪塊は触ると直ぐに壊れてしまう。
1時間半ほど樹林帯を歩いて、樹林が切れてしらびそ小屋が見えた。みどり池は凍っていて、雪が積もって、もうその姿は分からない。
気温が低過ぎて足先がかじかんで来ている。あまり休憩をせずに今日の宿泊地、本沢温泉を目指す。
自然が創り出す造形は美しい。柔らかい光が創り出す陰影がよりその造形を浮き立たせていて、手では決して作ることの出来ない柔らかな曲線。思わず触りたくなってしまうくらいに美しい。
そんな景色を眺めながら13時半頃、本沢温泉に到着。軒先の温度計はマイナス10度を指していた。空は明るんだり陰ったりしている。
受付をしながら、今日、急遽来れなくなってしまった隊長のお話を少しして大部屋に通される。
泊まってみたかった本沢温泉。
とても味わい深い雰囲気が漂う。まずはビールと、ちょっと腹ごしらえ。土鍋おでん、きのこそば、肉じゃが、、うーん悩む。ちゃんとお昼ご飯も食べてないので、ここはおでんか、いや、、と脳内ブレストが繰り広げられて、しっかりおでんと悩んだけど、ここは牛すじ大根にする。あれ、先の夏も牛すじ大根だった様な、、薪ストーブが焚かれる談話室でビールを開けて、ほっと一息。なかなか足先のかじかみは取れない。
さて、温泉は冬期は内湯は使われず、ちょっと離れの「こけももの湯」という、泉質はナトリウム・カルシウム‐硫酸塩・炭酸水素塩泉温泉の方が、女性、男性1時間おき代わりばんこで入れるという。そして本沢温泉といえば、日本最高所野天風呂 2150m 「雲上の湯」がある。泉質は含硫黄‐カルシウム・マグネシウム‐硫酸塩温泉と違う泉質の様だ。
とりあえず温泉はさておき、まずは雲上の湯。を覗きに行ってこようと思う。宿からは歩いて10分、15分くらいだろうか。深い雪道っぽいけどアイゼンも付けずに行ってみた。
なかなか遠い。。野天風呂のある谷の方へ回っていく途中で1人の女性と出会う。
「あ、今、女性お二人がお風呂に入られてましたよ」と。おっと、それはまずいぞ。
「そうですか、それはまずいですね」
「とても気持ちよさそうでしたよ」
と、行って別れた。そうではないのだけど、この先まだどれだけかかるのか分からないので、とりあえず確認をしに恐る恐る先に行ってみた。
視界が開けて、雪が舞っているその先に小さな四角い湯船とその中に頭らしき黒い点が2つ、ちらと見えた。
おっと、あそこか。と確認をして、とりあえず曲がり角の手前まで戻り、終わるのを待つことにする。
寒いけど、、カメラも持ってるし、いらぬ誤解を産んではいけないし、、15分、20分くらいか、木々の下で雪を凌ぎながら、周りの景色を眺めているだけで楽しかった。
すると、谷の方から声が聞こえてきた。
「もしかして待ってらしたんですか?」
「あ、先に来られた女性の方に・・」
と、経緯をご説明し、とりあえず誤解のない様にしておいた。大自然の中だけど、都会に生きる現代人の嗜みの様だ。
もう誰も野天風呂にいないことを確認できて、嬉々として向かう。雪が舞う。
真っ白の雪に覆われた谷筋にポツンと、屋根もない、脱衣所もない。こんなところで裸になってお風呂に入る。オツすぎるでしょう。なんとなく空は明るんで所々に青空が顔を覗かせてきていた。明日は晴れの予報。そんな気運を感じられた。
と、言っても、そんな度胸はない。暖かい湯船に両手を浸けて、顔にその湯をつけた。暖かい。足先も浸かりたい。ひとしきり景色を楽しんでいると、後ろから1人男性がやってきた。
「何もないんですね!」と、脱いだ服を濡らさずに置いておくのも難しそうだ。
ちょっと戸惑っていたけど、雲上の湯に浸かりにきたそうだ。
「では、楽しんでくださいね」
「え? 入らないんですか?」
「いえいえ、ちょっと寒すぎで。。笑」「え〜笑」
と、残念そう。男性が裸になる前に雲上の湯を後にした。
その後も、何人か男性グループとすれ違って、すごいなぁと思いながら見送った。
さて、そろそろこちらも温まりたい。時間が来たので離れの「こけももの湯」へ向かうことにする。とても混んでいる。みなさん、温もりを求めて。
建屋の中は外との温度差でムンムン、壁や窓は結露していてなるべく壁に触れたくない。まずは脱衣所で順番待ち。ようやく順番が回ってきて、浴室に入ると小さな、3〜4人でいっぱいの浴槽が二つ。一つは熱々、もう一つはちょうど良い湯加減の湯船であった。
隙間を借りてぬるい方の湯船に浸かる。
「あぁぁ・・」しか言葉が出ない。暖かくて、気持ちよくて、もうたまらん。とはこのことである。いろいろ、どこから登ってきたのかとか、明日はどこへ向かうのかなど、裸の付き合いに花を咲かせて、しっかり体を温めて湯から上がる。まだ続々とお待ちの人たちがいる。
湯から上がって、一旦全部着替えるともう夜ご飯の時間である。おビールを買って、食堂へ向かう。席に通され、テーブルを見ると豚肉のキムチ炒めとお惣菜、そして鍋がもう温まっている。お、今日は鍋か! 温まるぞっと、蓋が開くとおでんであった。
おでん。食べなくて良かった。六品をひとり一つずつ。美味しい。あぁお汁も沁みる。沁みる。同席の人たちとおしゃべりしながら。
話しかけられるまで、話しかけることはあまりしまい。人見知りである。話しかけられると、別に普通に話すのだけど。
美味しかった夜ご飯を終えると、もう後は寝るだけ。だけど、やっぱり外の様子も気になる。外に出て空を見上げると、すっかり空は晴れて、星空が広がっている。明かりに照らされた雪景色と素晴らしい夜空。一度にいっぱい綺麗すぎて勿体無い。
軒先の温度計を見るとマイナス15度を差していた。風がないとそこまで寒くないじゃないか。なんて思ったけど雪山用の登山靴を履いていても、すぐに足先が冷たさに痺れてきた。やっぱり寒い。
さらに、テント泊の人もいて、そんな、なんと男前な。。すごい人もいるものである。
建屋に戻り温まろう。と思ってもやっぱりそんなに暖かいわけではなく、ずっと寒い。
明日はお天気が良い予報。明日の山行をイメージする。準備を整えて、布団に入る。消灯時間の20時になる頃にはもう眠りについていた。
何度か目を覚ました記憶はあったけど、布団の中は暖かく、割とぐっすり寝られた。
DAY 2・硫黄岳を越えて赤岳鉱泉、美濃戸へ
4時半起床。寒くてちょっと動きたくない。まずはおふとん峠が越えられない。焦らず徐々に目を覚ます。談話室の薪ストーブは5時半からって言ってたなぁ。まずはトイレに行きたいけど、寒い。なんとか起き上がる。まだ真っ暗でストーブもまだ点いていない。階下の廊下は凍てつく様な寒さで、すぐに足先がかじかんでくる。急いでお布団に戻りゆっくりゆっくりとひとつひとつ準備をして、5時半にはそうっとザックを玄関口まで下ろす。
談話室のストーブが焚かれて、まだあまり食欲もないけどとりあえずアンパンを白湯で流し込む。前日の早朝にサーモボトルに入れたお湯はまだ少し暖かい。
6時には建屋内がバタバタし始める。ゆっくり準備をして、熱いお湯をいただいて、かじかみの取れない足のままを登山靴に突っ込む。
予定より30分遅れたが、6時半、朝焼けと共に本沢温泉を出発する。軒先の温度計はマイナス16度を差していた。
澄んだ空と眩しい朝日が今日の快晴を予感させる。雪を蓄えた木々の間からキラキラと木漏れ日が差し込む。風にさらされて舞う雪の結晶。全てがキラキラと輝いている。雪山は寒くて辛くて荷物も重いけど、そんなことを全て忘れてしまう様な、普段では決して見れない非日常の情景が広がる。
夏沢峠に着く。ここで装備を変える。そしてここから森林限界を越える。見上げると濃紺の空に硫黄岳が聳えていた。
昨日、雲上の湯に入ろうとしていた男性と出会う。
「お風呂、良かったですか?」などとおしゃべりをする。
「これから何方へ?」
「天狗を行って、渋の湯の方へ」
「そちらは?」
「硫黄岳越えて、赤岳鉱泉、美濃戸口まで」
お互いの安全を労って、お互いお気をつけて。
全てが凍りつく世界。
森林限界を越えると、凄まじい風と、飛んでくる雪が顔に刺さる。見上げたところに風の通り道か、白い噴雪が稜線を横切っているのが見える。あそこを渡るのか。と、それでもこの景色を撮りたい。オーバーグローブを取ると一瞬で手がかじかむ。あまりの寒さにデジタルカメラのバッテリーは一瞬にしてダウン。ネックウォーマーの息が当たるところは凍りつき、息で曇ったメガネも凍りつく。ナルゲンボトルの水も凍り、まつ毛も凍りつく。
懐にカメラを入れ、温めながら守る。
モンブランプロなんて名付けられている雪山用の登山靴と言っても、冷たさは伝わってきてもう足先の感覚はない。
傾斜はどんどんときつくなり、足元は雪というよりは氷で、その上を風で飛ばされた雪が走っていく。ザクザクとアイゼンとピッケルを刺しながらゆっくりと登る。
ピッケルの爪しか着かないトレースは風に吹かれて、あっという間に跡形がなくなっている。硫黄岳の所々に置かれている大きなケルンがその道を記している。
爆裂火口が見えてきた。アングリと口を開けた様な半円の火口は色と黒で彩られていた。
山頂に到達。
広々とした山頂も風が強くてじっとしていられない。でも、火口を上から眺めたい。うろうろとしながら、三角点をタッチ。快晴の青空の元、八ヶ岳連峰が明け透けな姿を見せている。去年の夏、縦走した赤岳から横岳、そして硫黄岳につながる稜線がくっきりと、はっきりと見える。樹林帯と森林限界の境目がはっきりと分かる。山肌に雪化粧され強調されたコントラストは岩々しくゴツゴツとした、さらに一段のレベルの差を感じられる。
山頂から赤岩の頭方面へ下ると、すっと風が止んだ。陽が降り注ぎポカポカと感じられる。稜線と谷を挟んだ赤岳や阿弥陀岳がゆっくりと眺められる。少し腰を下ろして、その景色を楽しむ。
なんでこんな辛い思いをしながら、こんな所にいるのだろう。
でも、こんな景色があると、そんな思いをしながらも来てしまうのだろう。幸せだ。
時々、強い風が吹くけど樹林帯へ飛び込めば、と黙々と下る。樹木がモンスターになりかけている。またこちらは景色が違う。本当に様々な景色を見せてくれる。
そろそろお腹が減ってきた。
次の経由地は赤岳鉱泉。あそこに行けば暖かいラーメンが待っている。樹林帯を縫う様に下る。一瞬、道を見失い積雪に突っ込む。腰以上に埋まる。いや雪に浸かる。の方が表現が合っているいるかもしれない。なんとか雪の中を泳いで、元の登山道へ辿り着く。
前もこんなことあったよなぁと、思いの外、深い雪に背中にまで雪が入ってきた。
10時半。赤岳鉱泉にたどり着き、食堂でラーメンを、味噌ラーメンと缶ビールをいただく。ストーブか効いていて暖かい。なるべく足先を温めながら、ラーメンを啜る。沁みる。
もうここからは、のんびりと歩いていける。ビールが美味しい。
再び準備を整えて外へ出る。冬の名物、アイスキャンディ。アイスクライミングの練習場としてアイスキャンディの様に堆く氷の壁面があり、楽しそうに登っている。
終始、青空の晴天の元、ゆるゆると下山する。続々と登ってくる人とすれ違い、言葉を交わす。みんな山の様子が気になる様だ。今朝は風はあったけどとてもいいお天気でしたよ、と伝える。
沢が、鉄分を含んだ川床を下っている。赤岳特有の赤い川床が雪の白さに映えている。
随分と下ってきた。もうすぐで美濃戸だ。南沢と北沢の分岐点。美濃戸山荘でちょっと休憩をする。大きなザックを下ろそうとしていた女性がいた。
「テント泊ですか?」
「そうなんです。行者小屋で。初めての雪山テント泊なんです」
「おぉ、、すごいですね」
「昨晩はマイナス15度ってなってました」
「やばそうですね・・」
「気をつけてくださいね」
などと、これからいく先や、歩いてきた所などしばしおしゃべりをして別れる。
さて、もうここからは林道を歩いていくだけ。
淡々と歩きながら、14時前、美濃戸口に到着。無事に着けた。ホッと安堵する。
バスの時間まで、八ヶ岳山荘でビールを飲みながらまったりとして、隊長へ下山報告をする。八ヶ岳山荘のお風呂はボイラーの故障で休止中だった。
バスは立ち客が少し出るほどだったけど、増便が出ている様でアルピコバスの配慮が素晴らしい。
うとうとしながら茅野駅へ着く。お目当てだった中華屋さんは午後のアイドルタイムで準備中。うーん。路頭に迷う。外は寒い。仕方がないので、あずさの時間を少し早める。ギリギリで席を確保。
そして、何か食べらるところはないかと駅前を徘徊しているとお蕎麦屋さんがあり、なんとか一席座ることができた。生ビールとかき揚げおろし蕎麦。混んでいてなかなかお蕎麦が来ない。ビールはもう無くなりそう。
蕎麦が来て、急いで食べる。食べ終わってお勘定をした時に声を掛けられる。
「この前、赤城山で会った人ですよね?」
「え?」
「えー、なんでこんな! こんなことってあります?!」
と、この前、赤城山の帰り、バスを待っている時にワイワイとやった人たちだった。
時間もないけど、その再会を分かち合う。
「二度あることは三度ありますから笑」
と、一瞬の楽しいひとときだった。山を歩いていると、思わぬ出会いがしばしばある。
なんで、こんなところで。と、いうところで。決して悪いことはできませぬ。
またビールを買い込みあずさに乗り込む。すぐに寝てしまう。
家路に着いて、荷物をばらし洗濯をしてお風呂に入る。
あぁ、よく歩いた。よく歩けた。厳冬期と呼ばれる季節に、2700mもの山に登ってみた。
天候に恵まれ、素晴らしい景色と、一期一会の人との出会いと。
寒く凍えながら雪の降り頻る山を歩いている時は、なんでこんなことをしているのだろう。こんな辛い思いをするのなら、来なければ良かった。などと、悪態を突くこともあったけど、厳しい環境の元でしか体感できない非日常の風景と達成感。
終わってみれば、いい思い出と充実感しか残っていない。また行ってしまうだろう。
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