唐松岳から五竜岳へ行く途中、道間違い。ビバーク2泊、ヘリコプター救助。


- GPS
- 56:00
- 距離
- 18.1km
- 登り
- 1,615m
- 下り
- 2,633m
コースタイム
- 山行
- 10:00
- 休憩
- 1:00
- 合計
- 11:00
- 山行
- 11:00
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 11:00
- 山行
- 2:00
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 2:00
1.濃霧の中、風は強くなかったので、唐松岳頂上山荘を出て、丑首の鎖場を慎重に通過した。
ほっとし先を急ごうとしているところ、右斜め前方から若い女性が、息を乱すこともなく上がってきた。この女性が来た道が登山道だと思い、その道を下がって行ってしまった。濃霧のため、正しい登山道は隠れて見えなかったのだ。
ここで変だと気づき、地図を確認していれば、良かったのだが…。
2.早く五竜山荘に到着したかったので、ひたすら黙々と歩き続けた。
12:10頃、これはやばいかも、とやっと気づいたが、もはや電話は通じないエリアにいた。さて、どうすれば良いだろうかと辺りを見ると、斜め左の前方に小さな雪渓が見え、その上が尾根になっていた。あの尾根上に道があるかもしれない。
雪があったので、直登でもキックステップで登れると思えた。(このように思えたのは、昨年谷川岳で受けた雪上訓練のおかげだった。)
何とか尾根に登ってみると、残念なことに藪尾根だった。2メートル以上もあるようなクマザサの藪で、見通しがきかなかった。少し下れば、道があるかもしれないと思い、少し下ってしまった。
3.立ち止まって辺りを見回すと、目の前に大きな山が鎮座していた。地形と地図とコンパスをつき合わせてみて、やっとその山が五竜岳であり、自分がどの辺りにいるのかがわかった。
そして、この場所は、普通の登山者が通るエリアではないので、自力で発見してもらえるところまで行かなければ、助からないことだけは明白だった。
4.どちらの方向へ進めば良いかがわかったので、2日間ビバークしながら、登山者が歩いている姿が見えるところまでがんばった。
大黒岳の鞍部の辺りを歩いていた登山者に声を掛けることができた。3日目の朝だった。救助をお願いすることができ、ヘリコプターにより救助された。
天候 | 初日は小雨、唐松岳頂上山荘付近は濃霧。その後は晴れ。 |
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過去天気図(気象庁) | 2015年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
写真
装備
個人装備 |
長袖シャツ
ソフトシェル
ズボン
靴下
グローブ
防寒着
雨具
ゲイター
日よけ帽子
着替え
靴
ザック
ザックカバー
昼ご飯
行動食
非常食
飲料
食器
ライター
地図(地形図)
コンパス
笛
計画書
ヘッドランプ
予備電池
筆記用具
ファーストエイドキット
常備薬
日焼け止め
ロールペーパー
保険証
携帯
時計
サングラス
タオル
ストック
ナイフ
カメラ
テルモス
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感想
●道間違い
初めての山であったこと、濃霧で本来の登山道が隠されていたこと、分岐と思われた地点で地図で確認しなかったこと。これらの要因が、道を間違えた誘因となってしまった。
早く「変だ」と気づくことが出来なかった理由を考察してみると、
・丑首の鎖場を通過した後、女性が登ってきた道を「疑わずに」進んでしまった。
このとき地図確認をしていれば、判断間違いが防げたかも知れない。
・このあと、谷筋を下ってしまったのだが、ほとんどお尻で滑って降りるようだった。登山経験が豊富ではないため、「こんな道は、一体どうやって皆降りるんだろう?」、「自分が未熟だから、上手く出来ないに違いない。」こんなことを思って、降りていた。「これは登山道ではない」ということに早く気づくことが出来なかったのだ。
・読図技術がしっかり身についていなかった。
今までの山行では何とかなっていたので、読図のどれほど必要であるかをわかっていなかったと痛感した。現在地を正確に把握できないことは、致命傷になると観じた。
下の谷の方から、川の流れる音が聞こえてきた。水を飲みたいと思ったが、「谷に降りたら絶対に助からない。道に迷ったときは、高い方へ登れ。」という鉄則を思い出して、行ってはいけないと自分に言い聞かせた。
また、黒部警察の方が病院へ事情聴取に来たとき、地図を見ながら「ああ、確かにここに尾根がありますね。」とおっしゃった。「えっ、自分には読み取れていなかった。」とショックを受けた。
地図読みが出来るようにならなければ...!
●初めてのビバーク
お守りのように、エマージェンシーシート(筒型タイプ)をいつもリュックに入れていたので、これが役に立った。ありがたかった。
・7月30日3時の時点でビバークすることを決めた。朝4:30から行動していたので、この時点で休息し、冷えやすい体質なので早く汗で濡れているウエアを乾かそうと思った。
ウグイスがすぐそばにやって来て、さわやかな声で歌ってくれた。元気づけられた。
・幸いなことに、2メートルほどの藪の中なので、夜露は防げると思えた。少し歩きながら、風も来ないような、平らで横になれるような場所を探した。防寒具・雨具を着てエマージェンシーシートの中に入り、リュックを敷き布団代わりにし、おしりのあたりには、座布団を当てた。夜中に何かあったとき、すぐに移動しなければならないこともあるかもしれない。そう思うと、靴を履くのに時間がかかる自分は、靴を脱くことが出来なかった。自分にとっての不安要因は、避けた方が安心だから。
・ふっと目が覚めたとき、夜空に煌々とまん丸い月が輝いていた。次の日も15夜の満月が頭上に輝いていた。一晩中、野外で満月の月光パワーを浴び続けるなんていう経験は、めったなことでは体験することはないだろう。
・エマージェンシーシートは、透湿性がないので、自分のかいた汗で目が覚めることが何度もあった。朝起きたとき、手袋も汗で濡れていた。空気の通う通路を作って何とか工夫したが、ビバーク用には、透湿性のある素材が適していると痛感した。
・夜中中、ヤブ蚊が顔の周りにやってきた。レインウエアのフードを顔にかぶるように着てみたら、少しましだった。
・3-4時頃の一番冷え込むとき、身体が寒さでがたがた震えだした。窮地に追い込まれると、人間は底力が発動されるのだろうか。ヨーガの技法に体内で熱を作り出す手法がある。チベットの高地で修行する僧侶たちも会得していると聞く。
この手法が、自動的に実行された。今までは、真似事をやったことしかなかったのに。
●救助
・登山道での人の声は、下に向かって降りてくるようで、自分のいる地点ではかすかな人の声でもよく聞こえたのだが、「おーい。」と呼びかけても、下から発する声は上には届かないようだった。あまり叫んでも、体力を消耗させるだけなので、笛に切り替えてみたが、やはり聞こえないようだった。最近のザックは、チェストベルトに笛が付いているものが多い。ありがたい機能だった。
・何度も上空でヘリコプターの音が聞こえた。自分を探しているのだろうかとも、甘い期待を抱いてしまう。見つけてもらうには、目立つものが必要だ。発煙筒があれば良いのかなとも思ってしまった。
ヘリコプターの音がしたとき、ストックの先に赤いザックカバーをつけ、旗のように振ってみた。ダメ元で。
やっぱり、見えないよなぁ〜。
・3日目の朝、クマザサの葉に溜まっている朝露をなめるようにして頂いた。日が昇ったら、乾いてしまうから。
背の高い笹藪、ハイマツが入り組んだ所をくぐり抜けていくのは、大変だった。
雪道のラッセルのように、膝で笹藪を押さえながら歩いたり、下をくぐり抜けたり。
ときどき「ああ、どうしよう。ここ、突破できない!」と五感覚が泣き言を言った。こういうときは、「ああ、体が疲れてきたんだな。休息してから、考えよう。」と対処した。休息し、ドライフルーツなどで少しエネルギー補給したあとでは、突破する方法を見つけ出すことが出来たのだから、不思議だった。
・行動中、「今、何が必要か?」「どうすれば、切り抜けられるか?」これしか考えなかった。「だめかも知れない」とは、爪の先ほども想わなかった。
・登り気味にトラバースしながら、ようやく登山者が自分と同じ目の高さに見えるところまでに到達した。
「おーい。助けてください。」
「あと200m位トラバースすれば、登山道にでます。がんばってください。」
「2日間ビバークしてしているので、体力がありません。救助を呼んでください。」
「了解です。」
登山者が電話で小屋に連絡してくださり、救助隊員の方が、現場まで来てくださった。9:30頃だっただろうか。
汗をだらだら垂らしながら、命懸けで藪の中を降りてきてくださった。
本当にありがたかった。心から感謝しています。
無線で、ヘリコプターの救助要請をしてくださった。
「体が脱水状態にあるときは、がぶがぶ水を飲むと、咳き込んだり吐いたりしてしまうので、ゆっくり少しずつ飲んでください。」とのこと。
温かいほうじ茶に、イオン飲料を少し溶かしたものを飲ませてくださった。
「あの、上空でヘリコプターが飛んでいましたが、五竜山荘に予定通り到着しなかったので、自分を捜索していたのでしょうか?」
「山小屋では、気が変わって来ないお客さんもいるので、予約していても来なかっただけでは、捜索はだしません。」
「あと200m位、トラバースしてください。と言われましたが、もう少し進めば自力で戻れたでしょうか?」
「いや、ここで救助要請したのは、正解だと思います。」
10時頃、ヘリコプターがすぐ上までやってきた。隊員に補助され確保されて、ヘリコプターへ収容された。10:13、ヘリコプターは富山中央病院へ向かって出発した。
現場へ救助に来てくださった救助隊員のN様、本当にありがとうございました。
N様がここから戻るのに、大変な苦労をされるであろうと推測されたので、一緒にヘリコプターに乗っていくことは出来ないのですか?と聞いたところ、
「我々は、ヘリコプターには乗りません。」
どうかご無事で戻られますようにと、祈るしかなかった。
黒部警察の警察官が、病院で次のようにおっしゃった。
「お願いですから、一人で山へ行かないでください。」
この警察官を通じて、自分は天の声を聞いたのかも知れないと思った。深く心に響いてくるものがあった。
この体験は、全てが貴重な経験であり、大変多くを学ぶ機会となりました。
そういう意味では、ありがたい経験でした。自分の不注意や未熟さを恥じ入ります。
この記録が、皆様の何か役に立つことがありますようにとお祈りいたします。
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