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Yamareco

記録ID: 7737792
全員に公開
積雪期ピークハント/縦走
北陸

【越美】厳冬の飯盛山と,アラクラ東尾根

2025年01月25日(土) [日帰り]
情報量の目安: S
都道府県 福井県 岐阜県
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GPS
--:--
距離
23.2km
登り
1,914m
下り
1,915m

コースタイム

日帰り
山行
13:50
休憩
0:00
合計
13:50
3:50
10
駐車地
4:00
160
扇谷林道入り口ゲート
6:40
140
滝尾根に取りつく
9:00
90
美濃峠付近(P1167)
10:30
100
飯盛山(△1201.9m,三等・戸ノ又)
12:10
120
熊河川を渡渉
14:10
50
アラクラ(P1229。「アラクラ山」とも)
15:00
120
17:00
40
塚白椿隧道の西口
17:40
駐車地
天候 くもり時々晴れ,ときどき小雪舞う
過去天気図(気象庁) 2025年01月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
扇谷林道の起点にある櫨原望郷広場(およびそれにつながる道路)は除雪されておらず駐車不可。そこから200mほど国道417号線を西進したところに1台分の路肩スペースがあったため,そこに駐車した。この近辺は大雪直後などは駐車スペースが見つからないかもしれない(確実に除雪されてそうなのは,磯谷ベロリ橋のたもとの山手トイレ広場くらい?)。
コース状況/
危険箇所等
・ 雪はかなり締まってきているが,まだ沈み込みがあるためスノーシューを使用(スノーシューを履いてしまえば,ほとんど沈み込まない)。
・ 扇谷の右岸に続いている扇谷林道(地形図に記載なし)は,断続的に雪崩による片斜面があるため歩行注意。特にカラカン谷出合(狂小屋)の手前に急で雪が硬い斜面ができており,アイゼンを履かされた。
・ アラクラ東尾根に取りつく際の熊河川の渡渉は,この時期は水量が少なく,靴を履いたまま渡渉可能(雪解け期は増水注意)。ただし両岸が雪壁になっているため要ピッケル。
・ アラクラ東尾根は,技術的にそれほど難しいわけではないが,急な雪稜が続き左右も傾斜が強い(特に北側は谷底まで切れている箇所があり落ちると助からない)ため,それなりに注意が必要。雪も硬いため,ピッケルとアイゼンは必須。規模は小さいがすっきりした雪稜が楽しめる,越美国境では珍しいルート(ただしアプローチに難がありすぎるので偏屈な好事家向け)
扇谷林道の入り口となっている櫨原望郷広場への接続道路は,期待に反して全く除雪されておらず,雪が硬すぎてスコップでの自力除雪も無理。運よく200mほど国道を行ったところに一台分の路肩スペースを見出し,そこに駐車した。
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扇谷林道の入り口となっている櫨原望郷広場への接続道路は,期待に反して全く除雪されておらず,雪が硬すぎてスコップでの自力除雪も無理。運よく200mほど国道を行ったところに一台分の路肩スペースを見出し,そこに駐車した。
雪に埋もれたゲートを乗り越え,ヘッデン頼りに扇谷林道を歩き出す。無雪期には何度か歩いたことがあるが,まさか真冬にこの林道を歩ける日が来るとは… 時々ライトを消して,頭上に広がる満天の星空を眺めながら行く。
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雪に埋もれたゲートを乗り越え,ヘッデン頼りに扇谷林道を歩き出す。無雪期には何度か歩いたことがあるが,まさか真冬にこの林道を歩ける日が来るとは… 時々ライトを消して,頭上に広がる満天の星空を眺めながら行く。
扇谷林道は何箇所か雪崩デブリによる片斜面ができていて,特にカラカン谷出合(通称・狂小屋)の手前の谷が狭まった箇所にはかなり急な斜面があり,雪も硬いのでアイゼンで通過。まさか扇谷林道でアイゼンを履かされるとは思ってなかった。
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扇谷林道は何箇所か雪崩デブリによる片斜面ができていて,特にカラカン谷出合(通称・狂小屋)の手前の谷が狭まった箇所にはかなり急な斜面があり,雪も硬いのでアイゼンで通過。まさか扇谷林道でアイゼンを履かされるとは思ってなかった。
ようやく滝ノ又谷との出合にやってきた。中央の尾根がこれから取りつく通称「滝尾根」。
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ようやく滝ノ又谷との出合にやってきた。中央の尾根がこれから取りつく通称「滝尾根」。
深い雪を割って流れる滝ノ又谷。
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深い雪を割って流れる滝ノ又谷。
例の重機も雪に埋もれていた。
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例の重機も雪に埋もれていた。
橋を渡って尾根に取りつく。この橋も,無雪期は背の高いヤブに隠されて発見が難しいくらいなのだが,今は別の場所かと思うくらいすっきりしている。
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橋を渡って尾根に取りつく。この橋も,無雪期は背の高いヤブに隠されて発見が難しいくらいなのだが,今は別の場所かと思うくらいすっきりしている。
この滝尾根は,実はその昔,美濃徳山と越前温見を結ぶ美濃峠越えの古道が通っていた尾根だ。2020年10月に一度探索したことがあるが,ヤブのない積雪期にこそ発見できる何か(例えばナタ目とか)があるかもしれないというのも,今回の山行の隠れた目的の一つ。
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この滝尾根は,実はその昔,美濃徳山と越前温見を結ぶ美濃峠越えの古道が通っていた尾根だ。2020年10月に一度探索したことがあるが,ヤブのない積雪期にこそ発見できる何か(例えばナタ目とか)があるかもしれないというのも,今回の山行の隠れた目的の一つ。
と,ブナの幹に文字らしき彫り付けを発見! 「マ」「ス」「ト」と読める気がするが…。それより下は雪に埋もれてしまっており,ピッケルで掘り出そうとしたが雪が硬くてあきらめた。この尾根を行き交っていた山仕事の里人や,古道の旅人が残したものだろうか。
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と,ブナの幹に文字らしき彫り付けを発見! 「マ」「ス」「ト」と読める気がするが…。それより下は雪に埋もれてしまっており,ピッケルで掘り出そうとしたが雪が硬くてあきらめた。この尾根を行き交っていた山仕事の里人や,古道の旅人が残したものだろうか。
最初は雑木の尾根だが,上部は美しいブナの森が広がる。
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最初は雑木の尾根だが,上部は美しいブナの森が広がる。
地形図で等高線が緩む900m〜950mのあたりは,意外なほどの広い平となっている。往時はここに焼畑があったという記録も読んだことがある。よくこんな標高が高いところに畑を作ったなぁ…
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地形図で等高線が緩む900m〜950mのあたりは,意外なほどの広い平となっている。往時はここに焼畑があったという記録も読んだことがある。よくこんな標高が高いところに畑を作ったなぁ…
抜けるような青空の下,若丸山が堂々と白く輝いている。
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抜けるような青空の下,若丸山が堂々と白く輝いている。
そのひとつ東側にあるP1226mも,意外な美しさで目を惹く。(これから登る予定の飯盛山△1201.9とのジャンクションピークだ。)
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そのひとつ東側にあるP1226mも,意外な美しさで目を惹く。(これから登る予定の飯盛山△1201.9とのジャンクションピークだ。)
もうすぐ越美国境稜線
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もうすぐ越美国境稜線
蕎麦粒山が遠くにとがっている
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蕎麦粒山が遠くにとがっている
P1167m着。越美国境稜線に登り上げた。往時はこのあたりに美濃峠があったはず(2020年の探索では,もう少し東に行った鞍部を峠と推定したが…)。積雪期の美濃峠付近は,なだらかな雪のウエーブを連ねた心惹かれる台地だった。
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P1167m着。越美国境稜線に登り上げた。往時はこのあたりに美濃峠があったはず(2020年の探索では,もう少し東に行った鞍部を峠と推定したが…)。積雪期の美濃峠付近は,なだらかな雪のウエーブを連ねた心惹かれる台地だった。
ふおうっ! 飯盛山の後の2つめの目的地であるアラクラ東尾根も見えるやん! 何とも美味しそうな無木立の雪稜…。これは登りたい。
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ふおうっ! 飯盛山の後の2つめの目的地であるアラクラ東尾根も見えるやん! 何とも美味しそうな無木立の雪稜…。これは登りたい。
とりあえず,まずは飯盛山へ。越美国境稜線を西進。
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とりあえず,まずは飯盛山へ。越美国境稜線を西進。
飯盛山とのジャンクションピーク,P1226付近に到着。
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飯盛山とのジャンクションピーク,P1226付近に到着。
ここから越美国境稜線を外れて,飯盛山に向けて北へ進む。
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ここから越美国境稜線を外れて,飯盛山に向けて北へ進む。
飯盛山への尾根は,地味〜な樹林の尾根が続くことを予想していたが,意外にも丸っこい雪庇が連なり,素敵なホワイトロードでした
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飯盛山への尾根は,地味〜な樹林の尾根が続くことを予想していたが,意外にも丸っこい雪庇が連なり,素敵なホワイトロードでした
ちょっとだけだけど樹氷もあるね
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ちょっとだけだけど樹氷もあるね
いい尾根やん
このあたりが飯盛山の最高点。ただ,三角点はもう少し北西寄りにある。
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このあたりが飯盛山の最高点。ただ,三角点はもう少し北西寄りにある。
三角点(三等・戸ノ又)はこっち。
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三角点(三等・戸ノ又)はこっち。
9月に熊河川から登った時も気が付いたけど,西側の戸ノ又谷側は立派なブナが多いです。
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9月に熊河川から登った時も気が付いたけど,西側の戸ノ又谷側は立派なブナが多いです。
三角点の北に続く3つのポコも当然行こうと思っていたけど,実際に眺めてみると平凡で食指が動かなかったので,引き返すことに。まあ,実際はきっといいところなんだろうけど。
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三角点の北に続く3つのポコも当然行こうと思っていたけど,実際に眺めてみると平凡で食指が動かなかったので,引き返すことに。まあ,実際はきっといいところなんだろうけど。
地形図から期待していた通り,飯盛山はたおやかな地形のつらなる,素敵なところでした。
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地形図から期待していた通り,飯盛山はたおやかな地形のつらなる,素敵なところでした。
9月に来たときは凄いヤブで全く分からなかったけど,こんなに明るくて,いいところやったんやね
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9月に来たときは凄いヤブで全く分からなかったけど,こんなに明るくて,いいところやったんやね
飯盛山よ,さようなら〜
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飯盛山よ,さようなら〜
さあ次はあそこ,アラクラ東尾根!(写真めっちゃぶれてるけど) ていうか飯盛山で油を売りすぎて既に時間がやばい…
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さあ次はあそこ,アラクラ東尾根!(写真めっちゃぶれてるけど) ていうか飯盛山で油を売りすぎて既に時間がやばい…
飯盛山のやや南寄りから西へ派生する尾根を,熊河川に向けて下降していく。この尾根も,けっこう立派なブナやらミズナラやらがあって,なかなか良かったです
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飯盛山のやや南寄りから西へ派生する尾根を,熊河川に向けて下降していく。この尾根も,けっこう立派なブナやらミズナラやらがあって,なかなか良かったです
アラクラがだいぶ近づいてきた… よし,この辺から谷底へ下降しますか
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アラクラがだいぶ近づいてきた… よし,この辺から谷底へ下降しますか
かなりの急斜面で雪も硬いため,アイゼン・ピッケルに切り替えて熊河川の谷底へ急降下。さて,無事谷底へ降りられるか,そして渡渉できるのか…下降するにつれて緊張が高まっていく
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かなりの急斜面で雪も硬いため,アイゼン・ピッケルに切り替えて熊河川の谷底へ急降下。さて,無事谷底へ降りられるか,そして渡渉できるのか…下降するにつれて緊張が高まっていく
よっしゃ,この水量なら全然いけるぞ! ていうか,熊河川ってこんなに川幅狭かったっけ? 雪が多すぎるんだと思うが,無雪期と風景が変わりすぎて,同じ場所に見えない…
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よっしゃ,この水量なら全然いけるぞ! ていうか,熊河川ってこんなに川幅狭かったっけ? 雪が多すぎるんだと思うが,無雪期と風景が変わりすぎて,同じ場所に見えない…
靴を履いたまま浅瀬を渡渉し,対岸の雪壁をピッケルで苦労して這い上がり,無事渡渉成功。アラクラ東尾根側の支尾根に取りついた。
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靴を履いたまま浅瀬を渡渉し,対岸の雪壁をピッケルで苦労して這い上がり,無事渡渉成功。アラクラ東尾根側の支尾根に取りついた。
取り付いた支稜はかなりの傾斜で,雪も硬いため,ピッケルと蹴り込みを効かせながら登っていく。
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取り付いた支稜はかなりの傾斜で,雪も硬いため,ピッケルと蹴り込みを効かせながら登っていく。
ついにアラクラ東尾根の主稜に登り上げた。背景は若丸山。(当初は若丸山の北西尾根から熊河川へ下降することも考えていたが,やはり部分的に崖が露出しており,かなり険しそうだ。)
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ついにアラクラ東尾根の主稜に登り上げた。背景は若丸山。(当初は若丸山の北西尾根から熊河川へ下降することも考えていたが,やはり部分的に崖が露出しており,かなり険しそうだ。)
アラクラの山頂が見えた! …む,東尾根,部分的にけっこう痩せてないか…? 無事登り切れるだろうか。
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アラクラの山頂が見えた! …む,東尾根,部分的にけっこう痩せてないか…? 無事登り切れるだろうか。
アラクラ東尾根を辿っていく。最初はおだやか。
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アラクラ東尾根を辿っていく。最初はおだやか。
次第に木立が少なくなり,尾根も細くなり始める。
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次第に木立が少なくなり,尾根も細くなり始める。
しかし,美しい尾根だ。北面からのアラクラもいいけど,やっぱり東面が一番いいかもしれない
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しかし,美しい尾根だ。北面からのアラクラもいいけど,やっぱり東面が一番いいかもしれない
ここ,ちょっとしたナイフリッジ。たぶん岩場が埋まっているんだろう。慎重に通過。
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ここ,ちょっとしたナイフリッジ。たぶん岩場が埋まっているんだろう。慎重に通過。
雪稜は何度かうねり,アップダウンを繰り返す。アップダウンごとに結構傾斜が強く,雪も硬いので,アイゼンを蹴り込みながら慎重に登っていく。
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雪稜は何度かうねり,アップダウンを繰り返す。アップダウンごとに結構傾斜が強く,雪も硬いので,アイゼンを蹴り込みながら慎重に登っていく。
美しくうねりながら続く雪稜
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美しくうねりながら続く雪稜
振り返る
山頂が近づいてきた
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山頂が近づいてきた
強い北風に雪煙が舞い飛ぶ中,低い姿勢を保ちながら,アイゼンを軋ませて進む
2
強い北風に雪煙が舞い飛ぶ中,低い姿勢を保ちながら,アイゼンを軋ませて進む
山頂手前に岩場らしき小さなポコがあり,下から眺めていたときは乗り越しに苦労するかと思われたが,ありがたいことに近づいてみると左側から簡単に巻けた。
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山頂手前に岩場らしき小さなポコがあり,下から眺めていたときは乗り越しに苦労するかと思われたが,ありがたいことに近づいてみると左側から簡単に巻けた。
山頂手前から,振り返って
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山頂手前から,振り返って
アラクラ山頂に到着。背景は若丸山と,能郷白山。
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アラクラ山頂に到着。背景は若丸山と,能郷白山。
アラクラ山頂の鋭い雪庇
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アラクラ山頂の鋭い雪庇
冠山も見える。やっぱり美しいね。今日も多くの人が登ったことだろう。
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冠山も見える。やっぱり美しいね。今日も多くの人が登ったことだろう。
さて,下山。冠ヶ峠に向かう。
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さて,下山。冠ヶ峠に向かう。
冠山に向かうトレースと合流。冬の奥美濃でこんなに完璧なトレースにぶつかるなんて,ちょっと前まではあり得ないことだった。
当初計画では若丸山を越えて扇谷まで戻る予定だったが,時間がなくなってしまったので,坊主尾根(シタ谷左岸尾根)を下ることにした。
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冠山に向かうトレースと合流。冬の奥美濃でこんなに完璧なトレースにぶつかるなんて,ちょっと前まではあり得ないことだった。
当初計画では若丸山を越えて扇谷まで戻る予定だったが,時間がなくなってしまったので,坊主尾根(シタ谷左岸尾根)を下ることにした。
冠山トンネル南口に降りる人気ルートではなく,その昔「おまわり」の御使僧も通った,坊主尾根をそのまま忠実に降りるクラシックルートで下ることに。が,予想に反してこちらにもしっかりトレースがあった。たぶん,冠山トンネル南口に車を停められなかった人たちが使っているのではないだろうか。
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冠山トンネル南口に降りる人気ルートではなく,その昔「おまわり」の御使僧も通った,坊主尾根をそのまま忠実に降りるクラシックルートで下ることに。が,予想に反してこちらにもしっかりトレースがあった。たぶん,冠山トンネル南口に車を停められなかった人たちが使っているのではないだろうか。
坊主尾根末端の崖を灌木をつかんで適当に降り,ヒン谷を渡渉。水量が少ないのでスノーシューのままで可。
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坊主尾根末端の崖を灌木をつかんで適当に降り,ヒン谷を渡渉。水量が少ないのでスノーシューのままで可。
国道まで戻ってきました。あとは塚白椿隧道を歩いて車まで戻るだけ… って,このトンネル,3kmもあるんかい!
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国道まで戻ってきました。あとは塚白椿隧道を歩いて車まで戻るだけ… って,このトンネル,3kmもあるんかい!

感想

 越美国境の飯盛山とアラクラという2つのマイナーな山に,さらに輪を掛けてマイナーな(それどころか偏執的でさえある)ルートから登った。不幸にも偶然このページを開いてしまった方の9割5分までは早くもブラウザを閉じかけていることと思うが,まあ良かったら風景だけでも楽しんでいってください。とても良い山ですので。
 
 飯盛山は,若丸山の東,越美国境稜線からやや北に外れたところにある標高1201.9mの三等三角点(点名「戸ノ又」)の山。登る人のほぼいないヤブ山である。越美国境縦走の登山者でさえ,わざわざこのピークに立ち寄ることは稀だろう。しかし,地形図を見ると,この山はなかなか恰幅の良い広がりを持っており,山頂はたおやかなピークを連ねた台地状で,積雪期は素敵な風景が広がりそうな予感がする。また,昨年9月に熊河川から沢登りで訪れた際に,戸ノ又谷側に立派なブナの森が存在していることを確認していた。冠山峠道路が通年開通したことで,この山も厳冬期に近づきやすくなったこともあり,この冬に登ってみようと思った。
 ルートは扇谷からとしたが,これは真冬の扇谷を歩いてみたかったのと,冠山トンネル南口ルートの喧騒からできるだけ離れたかったからである(静かな山に登りたくて奥美濃に来ているのに,どうしてわざわざガチガチに踏み固められたトレースを歩いたり,他人と駐車場の奪い合いをしなければいけないのか?)。それに,今回登路とした滝ノ又谷と扇谷本流の中間尾根である「滝尾根」は,その昔,美濃峠越えの古道が通っていた尾根であり,一度無雪期に探索済みではあったものの,積雪期のほうが見つけやすい痕跡(ナタ目など)もあるかもしれない。
 実際,滝尾根ではブナの幹に彫り付けられた文字らしきものを見つけることができたし,上部のブナ林は無雪期のヤブの中で見た時の印象よりもずっと美しかった。飯盛山も良い山でした。9月に沢から登ったときの鬱蒼とした印象から,きっと冬も樹林に包まれたシブい山頂なんだろうなぁと思っていたが,けっこう開けている場所も多くて,東に能郷白山をのぞむ,開放的で素敵な白い台地となっていた。ザックを下ろしてお昼にするにはうってつけの場所である(まあ,かなり奥まった位置にあるので,実際はそうゆっくりゴハンを食べてはいられないが)。無雪期と積雪期では印象がこうまで違うという,好例だと思う。

 アラクラ(書籍によっては「アラクラ山」とも)は,冠山のすぐ北東にある標高1229mのピーク。南の越美国境稜線側から眺めるぶんには目立たないが,北面から眺めるとなかなか堂々たる印象の山で,つい冠山と取り違えてしまうくらいである。北面〜西面を取り巻く熊河川支流のアラクラ谷は,アラクラ谷ゴルジュやアラクラ大滝をはじめとした峻険たる地形を隠していて,この山の印象をより独特なものにしている。
 この山自体,既に十分マニアックなのだが,その東尾根と来た日には,これはもう酔狂の誹りを免れ得ないかもしれない。そもそも,この東尾根,末端が深い谷に囲まれており,普通の意味でのアプローチルートさえ存在しない。取り付くには熊河川を延々と遡行するか(厳冬期にはこれはあまり現実的ではない),近隣の山に一旦登ってから谷底へ下降し,熊河川を渡渉しなければならない。
 どうしてわざわざそんな尾根に登りたいのかというと,2年前の2月に初めて雪のアラクラに登った際,山頂から東尾根を見下ろして,その美しい雪稜に魅せられてしまったのである。つまりは単なる個人的な思い入れ以上の何物でもない。が,評判だけで登る有名山岳よりも,個人的な思い入れで取り付くマイナーピークのほうが,100倍楽しい。少なくとも時には,そんなこともあるのではないだろうか。
 登った結果,一つ訂正したいことがある。これまで,北面からのアラクラが一番見栄えがすると言ってきた。しかしそれは間違いで,この山が最も印象的な表情を見せるのは,東面だった。それくらい,アラクラ東尾根は純白の雪稜を複雑にうねらせながら,山頂の一点へと美しく突き上げていた。特に北側は鋭く切れ落ちて,アイゼンの歯が立ちにくいくらいに氷化している箇所もあり,程よい緊張の中,雪煙に叩かれながら登っていると,どこかもっと高い山の稜線を辿っているような気分にさえなる。規模は小さいが,越美国境では珍しいすっきりした雪稜ルートなのではないだろうか。たぶん誰も登らないと思うけど。

 最後に,上の方で「冠山トンネル南口ルートの喧騒から離れたかった」なんてカッコつけて書いたけど,結局最後は時間切れのため,人気の冠山ルートのトレースにしっかりお世話になりました。いやー,やっぱりトレースがあると安心するなぁ!(さっきと言ってることが全然ちゃうやん…)

<関連記録>
・ 無雪期に滝尾根を登って美濃峠の古道を探索した際の記録(2020年10月)
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-2671580.html
・ 無雪期に飯盛山に登った際の記録(2024年9月)
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-7294563.html
・ アラクラに北面から登った際の記録。この頃はまだ冠山峠道路が開通していなくて,真冬にここまで来ること自体が結構大変でした(2023年2月)
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-5148129.html
・ 無雪期にアラクラに登った際の記録。アラクラ大滝もあるよ(2024年7月)
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-7044453.html

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コメント

ぎゃ〜、本当に行ってもうとる!
妄想を現実にもぎ取った感じ
それも、思いもつかなかったアプローチ
そっちからですか!!

北面ではなく、良いのは東面だなんて
まだ北面も行けてないのに…

1000メートル台のお山とは思えない写真のオンパレードで、本当は海外の高所へ行っていました?

一度思いついてしまったら、それは自分だけの大切なもので、取り憑かれて、行かないという選択はありえない 行かざるを得なくなる
という感じですよね

hillwanderer隊長のお気持ちは、わかるわ〜
指くわえて読み込みました
2025/1/27 10:24
もんりさん

はい、本当に行ってまいました笑
真冬に行ってみたかったもう一つのお山、飯盛山と組み合わせてみました。というか、もんりさんのご示唆もあって、若丸山北西尾根からのアプローチも考えてたんですが、アラクラ谷〜西日谷遡下降時に観察してたら尾根末端が結構険しそうだったので、今回のルートと相成りました。

勢いでかなり東面推しの書き方をしてしまいすみません💦 北面も美しいのは間違いないですよ〜 むしろ北面のほうが一個の独立峰としての貫禄が溢れてる!ような気がします。

「一度思いついてしまったら、それは自分だけの大切なもので、行かざるを得なくなる」…本当におっしゃるとおりです。沢も同じですね。思いついちゃったけど、本当に行けるか分からない、でもとりあえず行けるところまで行ってみる、という状態が一番楽しいような気がします。
2025/1/27 20:09
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hillwandererさんが見た景色を一目見ようと、アラクラを目指しました
余裕があれば、アラクラpeakから東尾根を時間の許す限り下って、東尾根を行った気になろうと企んでいました

結果は、ラッセルで時間を使い、大滝上の渡渉で時間切れ… アラクラ東尾根どころか、アラクラpeakもアラクラ北西尾根も行けませんでした

が、北面からのアラクラの雄姿を堪能でき、大満足! 
南側からだと、hillwandererさんのおっしゃるとおり、アラクラはただのポコですが、北側からだと、なんて雄大なんでしょう! 素晴らしかったです

また来シーズン、おじゃましてきますね
魔力的な写真をありがとうございました
2025/2/1 21:15
もんりさん

おおっ 行かれたのですね
新雪は山を美しくしてくれますが、ラッセルが厳しくなるのが二律背反で悩ましいですね〜 きれいな写真をありがとうございます!

出た〜、一旦下って登り返す作戦! 私もその誘惑に何度も駆られました😅 一見不合理な行為が実は一番合理的という…。雪が硬いところがあるので下降時はご注意ください!

またグッドタイミングがつかめるといいですね〜。
というか、先々週くらいまで「今後は高温傾向」と聞いてたのに、一転して今季一番の寒気とはなんぞや…
2025/2/2 21:11
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