登山をする際、大きなリスクとなる雷雨。その雷雨が、どのような気象条件の時に発生するのか、大きく3つのパターン(気団性雷雨・マルチセル型雷雨・スーパーセル型雷雨)に分け、事例を挙げて考察しました。
これから迎える夏山シーズンで避けたいのは、雷に遭遇することです。
先日も、インドで落雷により107名の死者が出たとのニュースがありました。
山を歩くのであれば、雷が発生しそうな日や時間帯を予測して、それを避けて歩きたいものです。
筆者は、以前「雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム」という表題で記事を投稿しました1)。
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=1653
実際は、前記事1)で記述したほど積乱雲の発達は単純ではなく、気象状況によっていろいろなパターンがあります。
そして、条件がそろえば、昼夜に関係なく広い地域で強い雷雨になることがあります。
本記事は、前記事を補足する形で、気象条件による積乱雲の発達メカニズムの違いについて紹介します。
また、過去に被害が起こった雷雨の3つの事例を挙げ、それぞれの雷雨がおきた気象条件について、地上天気図及び高さ5500メートル付近の高層天気図(500hPa)を用いて検討したいと思います。
1 雷雨の種類
図1に、積乱雲発達のための基本的条件の概念図を示します。
先日も、インドで落雷により107名の死者が出たとのニュースがありました。
山を歩くのであれば、雷が発生しそうな日や時間帯を予測して、それを避けて歩きたいものです。
筆者は、以前「雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム」という表題で記事を投稿しました1)。
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=1653
実際は、前記事1)で記述したほど積乱雲の発達は単純ではなく、気象状況によっていろいろなパターンがあります。
そして、条件がそろえば、昼夜に関係なく広い地域で強い雷雨になることがあります。
本記事は、前記事を補足する形で、気象条件による積乱雲の発達メカニズムの違いについて紹介します。
また、過去に被害が起こった雷雨の3つの事例を挙げ、それぞれの雷雨がおきた気象条件について、地上天気図及び高さ5500メートル付近の高層天気図(500hPa)を用いて検討したいと思います。
1 雷雨の種類
図1に、積乱雲発達のための基本的条件の概念図を示します。
以上の基本的な条件を前提にして、雷雨の発生パターンは大きく分けて三種類(気団性雷雨、マルチセル型雷雨、スーパーセル型雷雨)あります。
どの発生パターンになるかは、鉛直シアー(下層と上層の風の強さ及び風向の違い)の強弱によって決まります。
表1に各雷雨の特徴を示しました。
どの発生パターンになるかは、鉛直シアー(下層と上層の風の強さ及び風向の違い)の強弱によって決まります。
表1に各雷雨の特徴を示しました。
以下、各雷雨の詳細について記述したいと思います。
2 気団性雷雨
2.1 概要2)
一般的な夏の雷雨の形です。
鉛直シアーが弱い時に発生します。
図2−1に気団性雷雨となる積乱雲の一生、図2−2に積乱雲の分布イメージについて図示します。
2 気団性雷雨
2.1 概要2)
一般的な夏の雷雨の形です。
鉛直シアーが弱い時に発生します。
図2−1に気団性雷雨となる積乱雲の一生、図2−2に積乱雲の分布イメージについて図示します。
夏の時季、気団性雷雨は午後から夕方にかけて山沿いを中心に毎日のように発生します。
したがって夏の登山は、昼過ぎには行動を終わらせることが肝心です。
2.2 気団性雷雨の事例
2019年8月7日の午後3時ごろ、北岳の稜線で落雷があり、大学生1名が死亡する事故が起こりました。
この時の雷雨を事例として取り上げます。
2019年8月7日12時における地上天気図及び9時における高層天気図(500 hPa)をそれぞれ図2−3及び図2−4に図示します。
さらに、2019年8月7日9時における高層の気象観測値(茨城県つくば市上空)を表2に示します。
したがって夏の登山は、昼過ぎには行動を終わらせることが肝心です。
2.2 気団性雷雨の事例
2019年8月7日の午後3時ごろ、北岳の稜線で落雷があり、大学生1名が死亡する事故が起こりました。
この時の雷雨を事例として取り上げます。
2019年8月7日12時における地上天気図及び9時における高層天気図(500 hPa)をそれぞれ図2−3及び図2−4に図示します。
さらに、2019年8月7日9時における高層の気象観測値(茨城県つくば市上空)を表2に示します。
以上の気象条件から、この気団性雷雨が発生した要因は、
・地表面付近が猛烈に温められて大気の状態が不安定になったこと
・地上付近から上空まで大気が湿っていたこと
・地形(山岳)や日射による上昇気流が発生したこと
と、考えられました。
この気象条件は、真夏では一般的にみられる形です。
特に猛暑が厳しい近年では、午後になるとこの型の雷雨がどこでも(特に山岳地帯)発生する可能性があります。
3 マルチセル型雷雨
多くの積乱雲で構成された雷雨のことです
3.1 概要2)
鉛直シアーが強い時に発生します。
線状降水帯を形成することもあり、豪雨をもたらし広い範囲で強い雷雨となります。
図3−1にマルチセル型雷雨生成の概念図、図3−2に積乱雲の分布イメージについて図示します。
・地表面付近が猛烈に温められて大気の状態が不安定になったこと
・地上付近から上空まで大気が湿っていたこと
・地形(山岳)や日射による上昇気流が発生したこと
と、考えられました。
この気象条件は、真夏では一般的にみられる形です。
特に猛暑が厳しい近年では、午後になるとこの型の雷雨がどこでも(特に山岳地帯)発生する可能性があります。
3 マルチセル型雷雨
多くの積乱雲で構成された雷雨のことです
3.1 概要2)
鉛直シアーが強い時に発生します。
線状降水帯を形成することもあり、豪雨をもたらし広い範囲で強い雷雨となります。
図3−1にマルチセル型雷雨生成の概念図、図3−2に積乱雲の分布イメージについて図示します。
このように、様々なライフステージ(発生期・成長期・成熟期・衰退期)の積乱雲が規則的に集まって、群を形成する雷雨をマルチセル型雷雨と言います。
この型の雷雨は、次々と世代交代を繰り返しながら積乱雲が発生しますので、雷雨は長時間にわたります。
また、積乱雲が世代交代を繰り返しているとき、ほぼ同じ場所で同じ積乱雲のライフステージを迎えるケースがあります(バッグビルディング現象)。
成熟期を迎える場所では、次から次へと成熟期の積乱雲が通過していくため豪雨が長く続きます(線状降水帯)。
3.2 マルチセル型雷雨の事例
2015年9月9日から11日にかけて、関東地方から東北地方にかけて大規模な線状降水帯が発生しました。
この豪雨では、関東北部から東北南部の広範囲で24時間雨量が300ミリ以上を観測しました。
これにより、計20人の死者、負傷者82人、住宅の全壊81棟、床上浸水2,523棟などの甚大な災害をもたらせました。
この豪雨は「平成27年9月関東・東北豪雨」と呼ばれています。
これを事例として取り上げます。
2015年9月9日12時の地上天気図及び21時における高層天気図(500 hPa)をそれぞれ図3−3及び図3−4に図示します。
さらに、2015年9月9日21時における高層の気象観測値(茨城県つくば市上空)を表3に示します。
この型の雷雨は、次々と世代交代を繰り返しながら積乱雲が発生しますので、雷雨は長時間にわたります。
また、積乱雲が世代交代を繰り返しているとき、ほぼ同じ場所で同じ積乱雲のライフステージを迎えるケースがあります(バッグビルディング現象)。
成熟期を迎える場所では、次から次へと成熟期の積乱雲が通過していくため豪雨が長く続きます(線状降水帯)。
3.2 マルチセル型雷雨の事例
2015年9月9日から11日にかけて、関東地方から東北地方にかけて大規模な線状降水帯が発生しました。
この豪雨では、関東北部から東北南部の広範囲で24時間雨量が300ミリ以上を観測しました。
これにより、計20人の死者、負傷者82人、住宅の全壊81棟、床上浸水2,523棟などの甚大な災害をもたらせました。
この豪雨は「平成27年9月関東・東北豪雨」と呼ばれています。
これを事例として取り上げます。
2015年9月9日12時の地上天気図及び21時における高層天気図(500 hPa)をそれぞれ図3−3及び図3−4に図示します。
さらに、2015年9月9日21時における高層の気象観測値(茨城県つくば市上空)を表3に示します。
以上、今回の事例で、長期間にわたる強いマルチセル型雷雨(線状降水帯)が生成した推定プロセスを図3−5にまとめました。
4 スーパーセル型雷雨
巨大な積乱雲での雷雨のことです。
巨大な積乱雲での雷雨のことです。
4.1 概要2)
この雷雨も鉛直シア―が強いときに発生します
広範囲にわたって雷雨をはじめとした激しい気象現象が起き、竜巻をおこすこともあります。
大きさも数十キロにわたります。
この巨大な積乱雲の特徴は、上昇気流が鉛直方向から傾いて形成するため、雲を発達させる上昇気流の場と、雨を降らせる下降気流の場が別々に存在し、長時間(数時間)維持し続けることです。
図4−1にスーパーセル型雷雨の概念図、図4−2に積乱雲の分布イメージについて図示します。
この雷雨も鉛直シア―が強いときに発生します
広範囲にわたって雷雨をはじめとした激しい気象現象が起き、竜巻をおこすこともあります。
大きさも数十キロにわたります。
この巨大な積乱雲の特徴は、上昇気流が鉛直方向から傾いて形成するため、雲を発達させる上昇気流の場と、雨を降らせる下降気流の場が別々に存在し、長時間(数時間)維持し続けることです。
図4−1にスーパーセル型雷雨の概念図、図4−2に積乱雲の分布イメージについて図示します。
4.2 スーパーセル型雷雨の事例
2012年5月6日正午過ぎに、茨城県つくば市などで竜巻が発生しました。
被害としては、死者1名、負傷者37名 、住宅被害合計 1,114棟(うち全壊210棟)棟
等となりました。
周辺では、豪雨や降雹も確認されています。
今回、これを事例として取り上げます。
2012年5月6日12時の地上天気図及び9時における高層天気図(500 hPa)をそれぞれ図4−3及び図4−4に図示します。
さらに、2012年5月6日9時における高層の気象観測値(茨城県つくば市上空)を表4に示します。
2012年5月6日正午過ぎに、茨城県つくば市などで竜巻が発生しました。
被害としては、死者1名、負傷者37名 、住宅被害合計 1,114棟(うち全壊210棟)棟
等となりました。
周辺では、豪雨や降雹も確認されています。
今回、これを事例として取り上げます。
2012年5月6日12時の地上天気図及び9時における高層天気図(500 hPa)をそれぞれ図4−3及び図4−4に図示します。
さらに、2012年5月6日9時における高層の気象観測値(茨城県つくば市上空)を表4に示します。
表2 高層の気象観測値(つくば市上空:2012年5月6日9時4) (地上、850 hPa付近及び500 hPa付近における気温、相対湿度及び、地上、918 hPa、500 hPa付近及び300 hPa付近における風速・風向)
以上、強い竜巻を伴うスーパーセル型雷雨が発生した要因としては、
・下層に暖かく湿った空気が流入していた
・上空には寒冷低気圧に伴う非常に冷たい寒気が流入していた
・関東地方は、寒冷低気圧の南東部及びトラフの前面に位置し、南からの湿った空気が入りやすくなっていた
・上空には強い風が吹いていた
・鉛直シアーが強かった
ということが考えられました 。
・下層に暖かく湿った空気が流入していた
・上空には寒冷低気圧に伴う非常に冷たい寒気が流入していた
・関東地方は、寒冷低気圧の南東部及びトラフの前面に位置し、南からの湿った空気が入りやすくなっていた
・上空には強い風が吹いていた
・鉛直シアーが強かった
ということが考えられました 。
おわりに
以上、3種類の雷雨の発生について、事例も交えながら説明させていただきました。
この中でも、マルチセル型雷雨とスーパーセル型雷雨は、寿命も長く、非常に激しい気象現象もたらす危険な雷雨です。
マルチセル型雷雨やスーパーセル型雷雨が発生しやすい条件は共通してます。
・下層では暖かく湿った風が吹いていること、
・上空に寒気を伴った低気圧またはトラフ(気圧の谷)が存在すること
・上空に強い風が吹いていること(鉛直シアーが強いこと)
登山をする際、事前の気象情報で、「寒冷低気圧(寒冷渦)」、「湿舌」などという言葉が出てきたら要注意です。
「広い範囲で大雨に警戒」や「広い範囲で強い雷雨に警戒」などという天気予報が出ていたら、マルチセル型やスーパーセル型の雷雨になる可能性が高いと考えられます。
その時は、登山を中止することが賢明かもしれません。
気団性雷雨は、昔よりも起こりやすくなっていると考えます。
最近の夏は、温暖化やヒートアイランド現象などで、地上付近は猛烈な暑さになっているからです。
真夏の山では、いつでもこの型の雷雨に襲われる可能性があります。
この型の雷雨に遭わないためには、早出早着を心がけることが肝要かと思われます。
最後に、本記事が皆様にとって、少しでも気象災害から身を守る一助となれば幸いです。
引用・参考文献
1) ヤマレコ:ヤマノート「雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム」(2016.08.04)
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=1653
2) 小倉義光:中小規模の運動「一般気象学」(第17刷)東京大学出版会,pp.208-217 (1995)
3) 気象庁「天気図」、加工:国立情報学研究所「デジタル台風」(これをさらに独自加工)
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/weather-chart/
4) 気象庁「過去の気象データ」
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
5) 加藤輝之: 線状降水帯発生要因としての鉛直シアーと上空の湿度について「平成26年度予報技術研修テキスト」 気象庁予報部, pp.114-132 (2015)
以上、3種類の雷雨の発生について、事例も交えながら説明させていただきました。
この中でも、マルチセル型雷雨とスーパーセル型雷雨は、寿命も長く、非常に激しい気象現象もたらす危険な雷雨です。
マルチセル型雷雨やスーパーセル型雷雨が発生しやすい条件は共通してます。
・下層では暖かく湿った風が吹いていること、
・上空に寒気を伴った低気圧またはトラフ(気圧の谷)が存在すること
・上空に強い風が吹いていること(鉛直シアーが強いこと)
登山をする際、事前の気象情報で、「寒冷低気圧(寒冷渦)」、「湿舌」などという言葉が出てきたら要注意です。
「広い範囲で大雨に警戒」や「広い範囲で強い雷雨に警戒」などという天気予報が出ていたら、マルチセル型やスーパーセル型の雷雨になる可能性が高いと考えられます。
その時は、登山を中止することが賢明かもしれません。
気団性雷雨は、昔よりも起こりやすくなっていると考えます。
最近の夏は、温暖化やヒートアイランド現象などで、地上付近は猛烈な暑さになっているからです。
真夏の山では、いつでもこの型の雷雨に襲われる可能性があります。
この型の雷雨に遭わないためには、早出早着を心がけることが肝要かと思われます。
最後に、本記事が皆様にとって、少しでも気象災害から身を守る一助となれば幸いです。
引用・参考文献
1) ヤマレコ:ヤマノート「雷雲(積乱雲)の発生・発達メカニズム」(2016.08.04)
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=1653
2) 小倉義光:中小規模の運動「一般気象学」(第17刷)東京大学出版会,pp.208-217 (1995)
3) 気象庁「天気図」、加工:国立情報学研究所「デジタル台風」(これをさらに独自加工)
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/weather-chart/
4) 気象庁「過去の気象データ」
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
5) 加藤輝之: 線状降水帯発生要因としての鉛直シアーと上空の湿度について「平成26年度予報技術研修テキスト」 気象庁予報部, pp.114-132 (2015)
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※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
どなたでも、山に関する知識や技術などのノウハウを簡単に残して共有できます。
ぜひご協力ください!
初めまして、Swan-Song さん。bergheil(ベルクハイル)と申します。
ヤマノートをパラパラ見ていて、この記事を見つけ、読ましていただきました。
さすが「気象予報士」の資格をお持ちだけあって、専門的な内容を、解りやすく解説してあり、為になりました。
(因みに私は、気象に関心はあるものの、気象予報士の資格は持ってません )
なお、以下2点を追記、あるいは新たなヤマノート記事にされたら、いかがでしょうか? 余計な口出しですみません。
1)上空に寒冷渦がある場合、その南東側が最もシビアーウエザーになりやすく、要注意であること。
2)高層天気図(例;500hPa面)は、気象庁のホームページから、スマホでも見れること。
bergheilさん こんばんは
小生の拙稿に興味を持っていただき嬉しく思います。
ご指摘ありがとうございます。
寒冷渦の南東側の気象現象が激しくなるのは、南側からの暖湿流が入るからなんですね。
勉強になりました。
順次、加筆をしていけたらと思います。
気象庁の500 hPa天気図は、過去のものは見られないようです。
この記述は、加えるかどうか検討させてください。
以上、ありがとうございました。
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