(はじめに)
この章では、北アルプスの山々自体ではなく、西側の山ろく(飛騨地方)に点々と分布している地質体である「飛騨外縁帯」と呼ばれる地帯(地体)について説明します。
やや専門的な内容で、北アルプスの山々自体もほとんどでてこないことを、あらかじめお断りしておきます。
著者の個人的な興味で調べた内容をまとめた、といったところです。
やや専門的な内容で、北アルプスの山々自体もほとんどでてこないことを、あらかじめお断りしておきます。
著者の個人的な興味で調べた内容をまとめた、といったところです。
1)「飛騨外縁帯」とは?
日本列島を構成する地質、岩石の大部分は、約2.5億年前〜6500万年前の中生代(主にジュラ紀、白亜紀)と、約6500万年前〜現在までの新生代(主に新第三紀、第四紀)にできたもので形作られています。
ただし、日本列島にも古生代(約5.5億年前〜約2.5億年前)にできたと考えられる岩石、地質体が、わずかではありますが点在しています。日本列島のルーツを知るうえで古生代の地質体は重要ですが、全国各地に点在していること、変成作用により変成岩になっていたりすること、断層活動で分断されていたりすること、などにより、日本列島の誕生期ともいえる古生代のことは、まだ未解明の部分が多く、逆に興味深い点でもあります。
そのうちの一つに、「飛騨外縁帯」(ひだ がいえんたい)という地帯(地体)があります。
「飛騨外縁帯」の分布域は、細長くかつ切れ切れになっており、岐阜県飛騨地方北部から福井県の九頭竜湖付近まで、東西方向に、数kmサイズのブロック状に点在しています。
この「飛騨外縁帯」を構成する地質は、
a)古生代の非変成浅海堆積岩(泥岩、砂岩など)、
b)変成岩の一種である結晶片岩類、
c)蛇紋岩(マントル由来の岩石)、
の主に3種で構成されています。
それ以外には、石灰岩、凝灰岩、火山岩、はんれい岩(深成岩の一種)を伴う場合もあります。(文献1、文献2)
浅海堆積層は、その名の通り、海面下数百m〜約千m程度の海底で出来たものです。
結晶片岩は、高圧型変成岩の仲間で、だいたい、地下10〜30kmという地下深くにて、源岩が高い地圧の影響で構造変化してできたものです。
蛇紋岩は、地殻のさらに下の、上部マントル層を構成する、かんらん岩という岩石が変化してできたもので、少なくとも地下30km以上の深さから上昇してきたと思われます。
岩石のできた場所も、岩石の性質も異なる小ブロック同士が、ジグソーパズルでまとめたように、ブロック状にまとまっているのも、奇妙なことですが、この点も謎になっています。
ただし、日本列島にも古生代(約5.5億年前〜約2.5億年前)にできたと考えられる岩石、地質体が、わずかではありますが点在しています。日本列島のルーツを知るうえで古生代の地質体は重要ですが、全国各地に点在していること、変成作用により変成岩になっていたりすること、断層活動で分断されていたりすること、などにより、日本列島の誕生期ともいえる古生代のことは、まだ未解明の部分が多く、逆に興味深い点でもあります。
そのうちの一つに、「飛騨外縁帯」(ひだ がいえんたい)という地帯(地体)があります。
「飛騨外縁帯」の分布域は、細長くかつ切れ切れになっており、岐阜県飛騨地方北部から福井県の九頭竜湖付近まで、東西方向に、数kmサイズのブロック状に点在しています。
この「飛騨外縁帯」を構成する地質は、
a)古生代の非変成浅海堆積岩(泥岩、砂岩など)、
b)変成岩の一種である結晶片岩類、
c)蛇紋岩(マントル由来の岩石)、
の主に3種で構成されています。
それ以外には、石灰岩、凝灰岩、火山岩、はんれい岩(深成岩の一種)を伴う場合もあります。(文献1、文献2)
浅海堆積層は、その名の通り、海面下数百m〜約千m程度の海底で出来たものです。
結晶片岩は、高圧型変成岩の仲間で、だいたい、地下10〜30kmという地下深くにて、源岩が高い地圧の影響で構造変化してできたものです。
蛇紋岩は、地殻のさらに下の、上部マントル層を構成する、かんらん岩という岩石が変化してできたもので、少なくとも地下30km以上の深さから上昇してきたと思われます。
岩石のできた場所も、岩石の性質も異なる小ブロック同士が、ジグソーパズルでまとめたように、ブロック状にまとまっているのも、奇妙なことですが、この点も謎になっています。
2)飛騨外縁帯の各地区の地質概要
(1)福地地区
「飛騨外縁帯」のうち、もっとも東にあるブロックを「福地(ふくじ)地区」といい、平湯から新穂高温泉へと通じる国道の途中にある、福地という集落の周辺に存在します。だいたい、焼岳の西側4−5km、高原川沿いのあたりです。(文献1、文献2)
この福地地区の古生代の地層からは、古生代の生物化石が出ることで、古生物学分野ではよく知られているようです。各地の博物館に置いてある、古生代の化石標本(たとえば、ウミユリ、古代サンゴ類)の産地は、「岐阜県 高山市(旧 上宝村) 福地産」と書かれているのを、しばしば見かけます。
福地地区で特筆すべきことは、日本最古の化石と思われる、古生代初期のオルドビス紀(4.9億年前〜4.4億年前)の、「コノドント」とよばれる動物化石が、1997年に見つかっています。(文献1、文献5)
※ なお、福地地区も含め、許可なく化石の採取は禁止されていると思いますのでご注意下さい。
(2)槍ヶ岳近傍部
北アルプス山中には、「飛騨外縁帯」に属する地質体は、あとの章で述べる「蓮華帯」は除くと、ほとんど見られませんが、槍ヶ岳の、槍の穂先の根本、槍ヶ岳山荘があるあたり(飛騨乗越付近)には、産総研「シームレス地質図v2」をよく見ると、直径500m程度のごく小さい範囲ですが、結晶片岩が分布している場所が認められます。
この岩体を説明している文献は見当たりませんでしたが、おそらくこれも、福地地区の飛騨外縁帯の北東延長にあたる岩体と思われます。
前に述べたように、槍が岳〜穂高連峰にかけては、176万年前ごろに、そこにあった巨大火山(槍穂火山)が大噴火し、大規模火砕流となってできた地層(溶結凝灰岩、凝灰角礫岩)で出来ていますが、そのなかにぽつんと、おそらく3億年ほど前にできた結晶片岩の小ブロックが、アウエーな感じで存在するのも、不思議な感じがします。
「飛騨外縁帯」のうち、もっとも東にあるブロックを「福地(ふくじ)地区」といい、平湯から新穂高温泉へと通じる国道の途中にある、福地という集落の周辺に存在します。だいたい、焼岳の西側4−5km、高原川沿いのあたりです。(文献1、文献2)
この福地地区の古生代の地層からは、古生代の生物化石が出ることで、古生物学分野ではよく知られているようです。各地の博物館に置いてある、古生代の化石標本(たとえば、ウミユリ、古代サンゴ類)の産地は、「岐阜県 高山市(旧 上宝村) 福地産」と書かれているのを、しばしば見かけます。
福地地区で特筆すべきことは、日本最古の化石と思われる、古生代初期のオルドビス紀(4.9億年前〜4.4億年前)の、「コノドント」とよばれる動物化石が、1997年に見つかっています。(文献1、文献5)
※ なお、福地地区も含め、許可なく化石の採取は禁止されていると思いますのでご注意下さい。
(2)槍ヶ岳近傍部
北アルプス山中には、「飛騨外縁帯」に属する地質体は、あとの章で述べる「蓮華帯」は除くと、ほとんど見られませんが、槍ヶ岳の、槍の穂先の根本、槍ヶ岳山荘があるあたり(飛騨乗越付近)には、産総研「シームレス地質図v2」をよく見ると、直径500m程度のごく小さい範囲ですが、結晶片岩が分布している場所が認められます。
この岩体を説明している文献は見当たりませんでしたが、おそらくこれも、福地地区の飛騨外縁帯の北東延長にあたる岩体と思われます。
前に述べたように、槍が岳〜穂高連峰にかけては、176万年前ごろに、そこにあった巨大火山(槍穂火山)が大噴火し、大規模火砕流となってできた地層(溶結凝灰岩、凝灰角礫岩)で出来ていますが、そのなかにぽつんと、おそらく3億年ほど前にできた結晶片岩の小ブロックが、アウエーな感じで存在するのも、不思議な感じがします。
2)飛騨外縁帯に関する諸説
「飛騨外縁帯」はその由来が不明で、以下のような仮説が立てられています。
a)海洋上にあった古い島弧がプレートの動きとともに大陸に衝突して、その断片が帯状に分布している、という仮説、
b)大陸(地塊)の縁にあった地層群が、大規模な横ずれ断層でバラバラになりながらズリ動いた跡である、という仮説、
c)大陸の縁の沈み込み帯で出来た地質帯群である、という仮説(文献3)
これらの説がありますが、1950年代に研究が始まって、すでに70年ほど経ちますが、今だもって、定説がありません。
また、「飛騨外縁帯」は、東側、西側にも続いている(続いていた)ということも、しばしば仮説として提案されています。
東側の延長は、北アルプス北東部(白馬岳から親不知、糸魚川にかけての一帯)の「蓮華帯」(れんげたい)に続くという仮説は有力で、文献3)では飛騨外縁帯の一部という前提で記載されています (「蓮華帯」は、この第2部の後半の章で説明します)。 さらに東方は、いわゆる「フォッサマグナ地域」を飛び越えて、谷川岳、越後三山などを含む「上越帯」に続く、いう仮説(文献4)もあります。
西側の延長は、諸説入り乱れており、
a)「舞鶴帯」(京都府北部から兵庫県中部、岡山県中部にかけて分布する種々の地質が混じった地帯)仮説、
b)「三郡ー蓮華帯」(中国地方中部から北部九州にかけての高圧変成岩を主とする地帯)仮説(※ 「三郡帯」は現在では、「三郡−蓮華帯」と「周防帯」の2つに分けて考えられます最近では、2〜3の地帯に分割して考える学説もあります)。
c)「長門構造線」(山口県の北西部にある、断層帯)仮説、
d)「肥後帯」(熊本県の南西部にある地帯)仮説
などあり(文献2)、なかなかの奥深い謎です。
a)海洋上にあった古い島弧がプレートの動きとともに大陸に衝突して、その断片が帯状に分布している、という仮説、
b)大陸(地塊)の縁にあった地層群が、大規模な横ずれ断層でバラバラになりながらズリ動いた跡である、という仮説、
c)大陸の縁の沈み込み帯で出来た地質帯群である、という仮説(文献3)
これらの説がありますが、1950年代に研究が始まって、すでに70年ほど経ちますが、今だもって、定説がありません。
また、「飛騨外縁帯」は、東側、西側にも続いている(続いていた)ということも、しばしば仮説として提案されています。
東側の延長は、北アルプス北東部(白馬岳から親不知、糸魚川にかけての一帯)の「蓮華帯」(れんげたい)に続くという仮説は有力で、文献3)では飛騨外縁帯の一部という前提で記載されています (「蓮華帯」は、この第2部の後半の章で説明します)。 さらに東方は、いわゆる「フォッサマグナ地域」を飛び越えて、谷川岳、越後三山などを含む「上越帯」に続く、いう仮説(文献4)もあります。
西側の延長は、諸説入り乱れており、
a)「舞鶴帯」(京都府北部から兵庫県中部、岡山県中部にかけて分布する種々の地質が混じった地帯)仮説、
b)「三郡ー蓮華帯」(中国地方中部から北部九州にかけての高圧変成岩を主とする地帯)仮説(※ 「三郡帯」は現在では、「三郡−蓮華帯」と「周防帯」の2つに分けて考えられます最近では、2〜3の地帯に分割して考える学説もあります)。
c)「長門構造線」(山口県の北西部にある、断層帯)仮説、
d)「肥後帯」(熊本県の南西部にある地帯)仮説
などあり(文献2)、なかなかの奥深い謎です。
(参考文献)
文献1)日本地方地質誌 第4巻「中部地方」、日本地質学会 編、朝倉書店、(2006)
文献2)束田、竹内、小嶋、「飛騨外縁帯の再定義」、地質学雑誌、第110巻、10号、
p640-658、(2004)
文献3)もん座、丸山 「飛騨外縁帯の地質構造発達史」、地学雑誌、第120巻、6号、
p960-980、(2011)
文献4)茅原、小松 「飛騨外縁帯(特に青海―蓮華帯)及び上越帯に関する諸問題」、
地質学論集、第21号、p101-116、(1982)
文献5)ネット情報; http://chigaku.ed.gifuu.ac.jp/chigakuhp/html/kyo/chisitsu/gifunochigaku/fossils/fukuji_fossils/index.html
文献2)束田、竹内、小嶋、「飛騨外縁帯の再定義」、地質学雑誌、第110巻、10号、
p640-658、(2004)
文献3)もん座、丸山 「飛騨外縁帯の地質構造発達史」、地学雑誌、第120巻、6号、
p960-980、(2011)
文献4)茅原、小松 「飛騨外縁帯(特に青海―蓮華帯)及び上越帯に関する諸問題」、
地質学論集、第21号、p101-116、(1982)
文献5)ネット情報; http://chigaku.ed.gifuu.ac.jp/chigakuhp/html/kyo/chisitsu/gifunochigaku/fossils/fukuji_fossils/index.html
このリンク先の、2−1章の文末には、第2部「北アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
第2部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
【書記事項】
初版リリース;2020年5月29日
△改訂1;章の表題を、「槍穂高連峰(5)・・」から、「飛騨外縁帯」に変更。
章立ての変更。文章見直し、部分修正、加筆。
2−1章へのリンクを追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月8日
△改訂1;章の表題を、「槍穂高連峰(5)・・」から、「飛騨外縁帯」に変更。
章立ての変更。文章見直し、部分修正、加筆。
2−1章へのリンクを追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月8日
お気に入りした人
人
拍手で応援
拍手した人
拍手
ベルクハイルさんの記事一覧
- 日本の山々の地質;第7部 東北地方の山々の地質;7−9章 奥羽山脈(3)奥羽山脈の非火山の山々、及び奥羽山脈の隆起について 9 更新日:2024年01月27日
- 日本の山々の地質;第7部 東北地方の山々の地質、7−8章 奥羽山脈(2) 奥羽山脈南半分の火山群 11 更新日:2024年01月15日
- 日本の山々の地質 第1部 四国地方の山々の地質、 1−10章 香川県の山々;讃岐山地、香川県の山々の地質と地形 19 更新日:2023年03月18日
※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
どなたでも、山に関する知識や技術などのノウハウを簡単に残して共有できます。
ぜひご協力ください!
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する